一報を聞いた瞬間、日本でテロが起きたのかと思われた宇都宮で発生した連続爆破事件は72才の元自衛官による犯行と判明しました。
事件の背景が明らかになるにつれ、娘さんの病気の治療方針を巡る夫婦の諍いから離婚訴訟、妻や娘への接見禁止へと、元自衛官が追い詰められていった様子が浮かび上がっています。
事件の帰結から見れば元自衛官による身勝手な犯行であることは間違いないのですが、そこに至るまでの過程を考えた場合、同情すべき点は多々あるように思います。
ネットでの情報なので信頼性は不確実ですが、妻との諍いの原因は、長年勤めた元自衛官の退職金を含む数千万円を妻が信仰する宗教に投じてしまったことに起因したとの話もあります。
大手マスコミでも、娘さんの病気の治療方針を巡る夫婦の諍いと報じられていたことから、金額に違いはあっても、大方は事実に近いと考えて良さそうです。
ここから夫婦の溝が埋まり、離婚訴訟へと発展したのだと思います。
現在の離婚訴訟においては破綻主義が取られています。
即ち、夫婦として同一の生活を営むことができないほど夫婦関係が破綻しているのであれば、離婚の原因がどちらにあるかは問わず、離婚を申し立てた側の主張が通ることになります。
(申し立て側に不貞行為や暴力があった場合は異なりますが・・・)
つまり、どちらか一方が、「価値観の異なるこの人とは一緒にいられない」と強く主張すれば裁判所は離婚を認めることになります。
したがって、弁護士は、調停員や裁判官の前で夫である元自衛官を挑発して対立と破綻を印象づける戦略に出たのかもしれません。
宗教への寄付が詐欺であることを立証することは難しいので、元自衛官の主張が通ることはまずなかったと思われます。
一方、自衛官と言えば日本の平和を守ることを信条としており、その行動原理は「正義」にあります。元自衛官が弁護士を雇ったかどうかはわかりませんが、事の経緯と真相を話せば裁判所はきっと理解してくれる、妻も自分の真意を理解してくれると信じて法廷闘争を戦ったと想像します。
元自衛官官がブログで離婚判決を「冤罪」と主張していることからそのように考えます。
結果、離婚訴訟で敗訴しました。婚姻期間は相当に長かったと想定されることから、財産分与額は、元自衛官の預貯金等の金融資産及び自宅の土地建物の評価額の半分近くと想定されます。
もし、ネットにあるとおり宗教に数千万円を寄付したとなると、金融資産は相当に目減りしていますので、判決どおりの財産分与をした場合、元自衛官の金融資産はその後の生活を維持していくことが難しくなっていた可能性もあります。自宅も(財産分与の強制執行として裁判所に)差し押さえされていたとの報道もあることから、当然、金融資産も差し押さえられ、年金も離婚に伴う分割請求がされていたと思います。
日本の平和を守り、教官として若手自衛官の育成にも携わる幹部自衛官としての矜持を持ち、退職後は社会活動もされていた自他共に認める清廉潔白な人徳者の末路としてはあまりに耐えがたい屈辱であったと想像します。
憶測ばかりですが、娘さんの病気という予期せぬことをきっかけに離婚訴訟に発展し、時間の経過とともに元自衛官が追い込まれていったことは悲運としか言いようがありません。
自爆や自宅を爆破させるという扇情的な手段を選んだのは、もしかしたら経済的な理由以上に「なぜ、身を粉にして働き家族を養ってきた自分がここまでの仕打ちをうけなければならないのか?」といった精神的な劣情の方が、より大きかったようにも思います。
起きてしまったことは事後で何を言おうと取り返しがつかないことですが、事前に防ぐことができなかったのでしょうか?
元自衛官はSNSやブログで今回の事件の予告めいたことを何回か発信しており、本日、妹さんが「罪のない人を巻き込むのはやめて・・・」と諫めたとの報道もされていました。
電通の痛ましい事件も、SNSで多くのSOSが発信されていました。元自衛官も発信する心の裏側には、誰かに止めてほしかった気持ちが隠されていたように思えてなりません。